菊池契月画集/定価70000円/限定700部/大和絵の古典的な技法を基にしながら新しい工夫を加え静穏ななかに浪漫的な情趣を漂わせる作風は独特 ディスカウント

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菊池契月画集/定価70000円/限定700部/大和絵の古典的な技法を基にしながら新しい工夫を加え静穏ななかに浪漫的な情趣を漂わせる作風は独特

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菊池契月画集/定価70000円/限定700部/大和絵の古典的な技法を基にしながら新しい工夫を加え静穏ななかに浪漫的な情趣を漂わせる作風は独特

1982年 二重箱 別冊付属 定価70000円 限定700部 32㎝×44㎝の大判です。いわゆる豪華本ですね。部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

菊池契月先生にはご生前に、戦後間もなくのころ、私は一度だけお目にかかっている。その前にも、三越で開かれている 「七絃会」の会場な どで、遠くからお姿に接したことはあったように憶えているが、直接ご警咳に接したのは、後にも先にも一度だけである。戦後間もないころで あったから、どこの旅館でもお米を持っていかなければ泊めてくれないような時期であった。私はご子息の彫刻家菊池一雄さんを訪ねて京都に 行き、北野天満宮の直ぐ傍らの大きな菊池邸に図々しくも泊めて貰ったのである。菊池一雄さんは年は十年ほど私の方が上であるが、東大の同学 科の出だったから、旧くからの友達であった。玄関の直ぐ傍らに昔風の広い土間の台所があったことが記憶にある。恐らく一雄さんの祖父に当 る菊池芳文先生以来のものではないかと思った。その晩は一雄さんと一緒にすきやきをご馳走になり、翌朝、広大な庭の見える広間で、契月先 生にお目にかかった。ああいう風貌を温容というのだろうか、まことに穏やかな挙措応対であった。長野県に生れて、永い生涯を京都に過され ているにしても、その悠揚たる風姿は実に立派であった。

その時、私はいろいろ絵についてのお話をうかがったが、一幅の白描体に近い桜の絵を拝見する機会に恵まれた。その絵はこの画集にも出て いると思うが、大きな瓶に插した数朶の花をつけた桜の枝の絵であった。絵に大きさがあって、画品高いものがあった。白猫といっても単純な 細線だけでない抑揚のある墨線が見事であった。 契月先生は自己を見せびらかすような方ではない。その時も、こんなものしかいま手許になく て、と謙遜な言葉を添えて見せて下さった。 その時はお元気だったが、それから数年して先生は七六歳でお亡くなりになった。

昭和三一年、当時私がその仕事に携っていた東京の国立近代美術館で「菊池契月遺作展」が開催され、その生涯の仕事の全貌に近いものを つぶさに見ることが出来た。契月先生のすべての絵の作調は端正であった。作情はすべて清澄であった。清澄といっても、それぞれの絵に籠っ た作意が表現の内容としてはっきりと出ていて、皮相に技巧だけの面白さに終始しているものではなかった。ただ、その作意が奇矯なものでも 新しさを衒ったものでもなかった。この画家の人柄そのままに、穏やかに温雅なものであった。だから、その画風そのものは特に新風を呼ぶとい うようなものではなかったかもしれないけれど、確りと昔からの伝統の上に足を踏まえ、その時代の中庸を得た感情を盛ったものだった、と私 は感じてその遺作展を通覧した。こういう絵は特に見る人々の眼や心に強い衝撃を与えない。だから、一見、平凡にさえ見る人があるかもしれ ない。が、私の考えでは、その点にこそ、まさしく菊池契月先生の作情の真骨頂があったのではないか。そして、その故にこそ、時代が経つに つれ、この画家の作品には、この画家の生きた時代の感覚や感情が一層鮮明に浮かび上ってくるに違いないと私は信じている。

ご子息の菊池一雄さんが、この度、心を籠めて父契月の画集を編纂された。嘗て、いまは亡き平櫛田中翁が菊池一雄さんを東京美大の彫刻の教 授として迎える時、菊池一雄という人は親孝行だと聞いている。 親孝行な人に悪い人間はないと、田中先生らしいことをいった。この契月画集 もその親孝行の一端の表れかと思う。

この画集に序文をという一雄さんからのお話であったが、序文というのは大体謹直な文章で書くのが慣習となっているようだが、この小文は ありのままのことを随想風に書いて、序文にならない序文となった。この画集をご覧になる方々の諒恕を請いたい。


日本画家。長野県に生まれる。本名細野完爾(かんじ)。初め児玉果亭に師事したが、画家になることを家人に反対され、1896年(明治29)に出奔、京都に出て南画家内海吉堂に師事した。やがて師の計らいで四条派の菊池芳文(ほうぶん)に入門、芳文の長女アキと結婚してその家を嗣(つ)いだ。98年、新古美術品展に出品して受賞、1907年(明治40)の第1回文展では『春暖』が受賞した。以後文展に毎回出品して受賞を重ね、18年(大正7)に審査員になった。22年に渡欧、翌年帰国。25年に帝国美術院会員、34年(昭和9)には帝室技芸員になった。また1910年から36年まで京都市立絵画専門学校で後進の指導にあたり、校長も務めた。49年、日本芸術院会員。

大和絵(やまとえ)の古典的な技法を基にしながら新しいくふうを加え、静穏ななかに浪漫(ろうまん)的な情趣を漂わせる作風は独特で、『供燈(ぐとう)』『鉄漿蜻蛉(おはぐろとんぼ)』『立女(りつじょ)』『南波照間(はいはてるま)』などがよく知られている。彫刻家菊池一雄は長男。

[原田 実]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

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